研究内容
研究内容
私たちのグループでは神経細胞における翻訳調節と発達障害との関連について研究しています。神経細胞は非常に長い細胞で、その先端部では、核のある細胞体から半独立した翻訳調節を行うシステムが存在しています。すなわち、先端のシナプスでは「地方分権」的に翻訳のタイミングを自ら決定することができるのです。この翻訳調節システムにおいてはRNA結合タンパク質とマイクロRNAが重要な役割を果たしています。神経先端部の翻訳調節機構が異常になるとシナプスの形態・機能が影響を受け、知的障害、自閉症などの発達障害になる可能性があることもわかってきました。私たちは、遺伝性発達障害である脆弱X症候群において、神経先端部局所の翻訳調節機構と神経の形態・機能の関連を明らかにしていきます。
1. 脆弱X症候群の神経細胞における局所翻訳とプレシナプスの機能
脆弱X症候群の原因遺伝子産物であるFMRPは翻訳調節を行うRNA結合タンパク質です。私たちはその原因遺伝子を欠く疾患モデルマウス (Fmr1-KO) ではプレシナプスにおける特定のタンパク質 (Munc18-1等) の局所翻訳が上昇し、プレシナプスの機能が亢進することを見いだしました(上図、左)。私たちはFMRPによるプレシナプスの調節機構を研究することで、脆弱X症候群の病態の一端を明らかにしたいと思っています。
2. 脆弱X症候群の神経細胞におけるストレス応答
脆弱X症候群疾患モデルマウス (Fmr1-KO) では酸化ストレスが増加しており、野生型に比べて神経細胞により強いストレスがかかっていると考えられます。ストレスに応じて細胞内ではストレス顆粒と呼ばれる、mRNA とRNA結合タンパク質から構成される顆粒が形成され、不要不急の翻訳を停止し、ストレス耐性を発揮することが知られています。Fmr1-KOマウスではストレス顆粒の構成因子の一つでもあるFMRPを欠くことからストレス顆粒の形成が減少し、ストレス耐性が低下する可能性があると考え、研究を行っています。
3. 神経軸索のマイクロRNAと翻訳調節
マイクロRNAは20-25塩基前後の小さなRNAで、タンパク質はコードしないが、mRNAと結合し翻訳等を制御することが知られています。私たちは特定のマイクロRNAが神経軸索の先端部に局在することを見いだしました。現在、これらのマイクロRNAが軸索内の局所翻訳、さらには近隣の細胞の翻訳を制御し、機能を調節するか明らかにしようと考えています。